東京の一地域における路上生活者の精神疾患患者割合に関する実態調査

2009年末、精神科医・看護師・臨床心理士・社会福祉士などの多職種共同研究チーム「ぼとむあっぷ研究会」のメンバーが、東京都心で路上生活をしている男性168人の同意を得て、面接調査や簡易知能検査、精神科医による診察などを行いました。心理検査の有効データ164人の平均年齢は55歳でした。また、最終学歴は小学校が2%、中学校が56%でした。
知能検査の結果、知的機能に何らかの軽度の障がいのあると疑われる人が28%、中等度の疑いのある人が6%でした。
「知的機能の障がい」について「ぼとむあっぷ研究会」では、「先天的・後天的な理由を問わず、知的機能の状態を表すための一つの指標である<IQ値>が<全人口推定IQ平均値>から2標準偏差以上低いこと」と定義しました。
「知的障害」と診断されるためには、障害が18歳以前の発達期に生じていたという根拠が必要です。しかしこれらの方々はすべて、調査時点では、知的機能が低くなった原因が、先天的な原因によるのか、後天的な原因によるのかを特定出来なかったために「知的機能の障がい」という表現を使用しました。
この「知的機能の障害」はいわゆる「知的障害」「精神遅滞」のことではなく、様々な要因、すなわちその人の生物学的・生理学的な特性、その後の体験や社会的な環境条件によって結果的に生じるものであると考える必要があります。
これらの方々は、実際に様々な生きにくさを抱えていらっしゃいます。
軽度の方においては、ものごとや出来事を概念化して抽象的に考えるのが苦手であり、中等度の方においては、適切な支援がないと生活自体が難しくなります。
同時に実施した精神科医の診察では、19%にアルコール依存症、15%にうつ病が認められるなど41%の人が何らかの精神疾患を抱えていました。

知的機能に関する障がいや、精神疾患のある方々に対しては、それぞれの方の生きづらさの現実(障害特性・環境への適応状態)に応じた適切な対応や支援が必要で、支援のためのアセスメントや実際のサポートを伴う事例研究や、事例研究によって具体的に明らかになったことにも焦点を当てて行くような調査研究が引き続き必要です。

(森川すいめい・上原 里程・奥田 浩二・清水 裕子・中村 好一、東京都の一地区におけるホームレスの精神疾患有病率、日本公衆衛生雑誌、2011 年 58 巻 5 号 p. 331-339)