4月2日毎日新聞夕刊1面の記事でTENOHASIの炊き出し


新型コロナウイルス感染拡大の長期化は路上生活者らへの支援にも影響を及ぼしている。集まった人がクラスター(感染者集団)になることを懸念して炊き出しを中止したり、配布するマスクの数を制限したりするなど、支援団体が対応に苦慮している。【滝川大貴】

「嫌だけど…」拾ったマスク着ける

 陽気に包まれ桜の開花が一気に進んだ3月下旬の夜、東京・隅田川近くの高架下にしゃがみ込む男性がマスクを着けて歩く花見客を眺めていた=写真。生活物資などを詰め込んだカートの横で、自らも口と鼻をマスクで覆う。現在持っている2枚は、いずれも路上で拾ったものだ。知人からうわさを聞き、新型コロナウイルスへの感染が怖くなって着け始めた。「落ちていたマスクを着けるのは嫌だけど、ウイルスにかかるのも嫌だ」――。

 東京都豊島区周辺で路上生活者や生活困窮者を支援するNPO法人「TENOHASI」と国際NGO「世界の医療団」は、週1回の夜の巡回や月2回の炊き出しに合わせて3月14日からマスクを配布し始めた。国内で感染者が確認される前から冬季には希望者に配ってきたが、感染拡大を防ぐため、支援者からの寄付や昨年までに購入してあった3000枚超の備蓄の中から1人につき3枚配布。マスク以外にもハンドソープや消毒用のアルコール、独自にまとめた感染防止のガイドラインも配る。

 炊き出しでは、集団感染につながらないよう集まった人に事前にマスクを配布。100人以上が間隔を空けて1列に並ぶ。支援を受けた男性(67)は「マスクは1日おきに洗って使うようにしているが、無いよりもずっとありがたい」と話した。

 しかし、国内の新型コロナウイルス感染が収束せず長期化するなか、TENOHASIは配布から1週間で1人当たりに配るマスクを1枚に減らした。炊き出しの際に医療相談を実施する世界の医療団の武石晶子さん(41)は、「路上生活をしている人たちは、普段から野宿生活でほこりや粉じんを吸い込むことが多く、免疫力が低下したり基礎疾患のあったりする人も多い。万が一、新型コロナウイルスによる肺炎にかかった場合、重症化する恐れもあり、感染拡大を防ぐためにもマスクの着用が必要だ」と話す。

 また、都内の支援団体の中には集団感染を懸念して炊き出しを中止する団体もある。炊き出しがなくなった地域の路上生活者が他の地域の炊き出しに参加し、配布する食料が不足している団体もあるという。JR池袋駅近くの公園で28日夜に行われた炊き出しで弁当を受け取った路上生活者の60代男性は、「炊き出しもマスクの配布も無くなったら他の所に行くしかないが、困る」と話し、感染予防のため足早に公園を立ち去った。

 TENOHASIの清野(せいの)賢司(けんじ)事務局長(58)は「感染拡大は避けなければいけないが、炊き出しの中止は、路上生活者一人一人にとってはその日当てにしていた食事が失われることにつながる。最善の方法を模索したい」と話す。

 東京都福祉保健局によると、国は2月下旬、▽手洗いや「せきエチケット」の励行▽体調不良を訴える路上生活者に医療機関の受診を促す――などを路上生活者らに指導するよう行政機関に対して通達を出した。同局の担当者は「店頭でマスクを購入するのも難しい状況ということもあり、手洗いなど基本的なケアを行う指導を優先している」と話す

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