3月27日 炊き出しボランティア日記

何年か前、炊き出しの活動場所の真横、サンシャインのオフィスビルに勤務していた私は、ぼんやりとですがTENOHASIの活動を知っていて、参加してみたいと思っていました。

その頃、池袋駅で休まれているホームレス状態の方々も「いつものあの人」という感じの、同じ顔ぶれの方が多く、何かしたい気持ちがあったのです。

しかし、そのような思いを抱えつつも、当時はまだ働き方改革など叫ばれる以前で、私自身も夜12時、1時に帰宅し、シャワーを浴びて身支度をすると早朝のオフィスに戻って定時開始前までの仕事を仕上げる…と言った、めちゃくちゃな働き方をしており、とても誰かのことをケアする余裕はありませんでした。

そこから数年を経て、コロナ禍となって多くの方が困難な状況にある中、改めて自分のできることはないのかと探した時、T E N O H A S Iの活動を思い出し、今回初めて参加させて頂くに至りました。

現在T E N O H A S Iでは感染症対策の観点から、一度に受け入れる新規のボランティアの数を制限されており、一回につき4名の方までの参加が可能とのこと。

東池袋の公園での炊き出しは18時から、洋服などの無料配布は16:00からですが、初参加者はお昼過ぎからT E N O H A S I代表、清野さんからホームレス状態にある方々を取り巻く現状や、活動状況についてレクチャーを頂きます。参加者は高校生、大学生、社会人など多様な顔ぶれです。

清野さんから語られる当事者の状況はたいへん厳しいもので、路上生活をされている方の中には、発達障害などが原因で仕事が覚えられなかったり、空気が読めずに職場でいじめにあったりして、仕事を辞めざるをえなかった方もおられるそう。T E N O H A S Iを立ち上げられた、森川すいめい先生の著書『漂流老人ホームレス社会(朝日文庫)』にもうつ病がきっかけで仕事をなくし、そのまま住まいを失った方の話が語られていたかと思います。

パートナーや家族からのD Vや虐待から逃げた結果、路上生活を余儀なくされたり、昨今ではコロナ禍による日雇いの仕事の減少や雇い止めなど、実に多様な困難の先に住まいを失ってしまう現実があることを知りました。

また、そのような方々を利用しようと企む、所謂貧困ビジネスと呼ばれるものが存在するとの説明には、思わず眉をひそめずにはいられませんでした。「結婚できる」と言って海外の女性との偽装結婚させられる、路上生活者から携帯や通帳、戸籍を数万円で買い取り、振り込め詐欺や土地などの購入に使う(土地代はもちろん戸籍の持ち主である路上生活者に請求されることになる)、劣悪な宿泊所を斡旋し、保護費の大部分を搾取するなどのケースがあるそう。

T E N O H A S Iではこうした困難にある方にアプローチするため、メインの活動として炊き出しや生活相談、生活保護の申請同行などを行っていますが、レクチャーの間も清野代表あてに急な相談の電話などあるようで、ほんの小一時間の間に何度も携帯が震えていました。

レクチャー後にいよいよ炊き出しの会場となる東池袋へ移動した私たちを待っていたのは、すでに集まり始めていた路上生活者の皆さんでした。

「今日は何時からお弁当配布?」と聞きに来て、いかにも心待ちといった方も。まずは洋服の配布、その後に食事をお渡しする時間になりますが、16:00の開始時間には、ぐるりと公園の外周を囲むように長蛇の列ができていました。

洋服はシャツなどのトップス類、ベルト、帽子、肌着、靴、ズボンなどから好きなものを一人計3点、1アイテムにつき1点ずつ選ぶシステムです。密にならないよう、列の流れが詰まらないようにあまりじっくり選ぶことはできませんが、皆さん思い思いにこれがいいかも、あれがいい
かと品定めされていきます。私がいた肌着や帽子のエリアでは、この日の昼間とても暖かかったこともあって半袖を求める方が目立ちました。

列に並ぶ方々は、普段フィクションの世界で路上生活者として描かれるような、ボロ布みたいなものを巻き付けた感じの、汚れた格好の人は見受けられません。不要なトラブルや偏見などを回避するために綺麗にされているのだと、この洋服の配布は非常に大切なことなのだという説明を思い出しました。

元々の寄付の数が少ないのか、帽子は早い段階ですべて貰われていきましたが、伸びていたり、洗うことのできない髪を誤魔化したり、人目を避けるのに必要なのかも知れないと感じました。

というのも私自身、数年前に適応障害に罹ってうつ状態が続いていた時、すれ違う誰かの目線が怖くて、一夏どこに行くにも帽子を目深に被っていた経験があるからです。

困難にあって疲弊しているときに、他人が怖い、見ないで欲しいと感じる。そういうことを思っている方もおられたのかも知れません。

その後は、ようやくお弁当の配布。この日の食事はマスジド大塚、T E N O H A S Iでは「大塚モスクさん」と呼ばれるJ R大塚駅にあるムスリム(イスラーム教)の礼拝所提供のビリヤニをメインに、パン、チョコレート、クラッカー類、ペットボトルのお茶やアルファ米が配られました。1周目に並ばれた方だけでも300名以上の方が、食事の提供を受けました。2周目に並ばれた方の袋にも、再びクラッカーを入れ続け、翌日はペンを握るのも上手くできないくらい疲弊していました。長い自粛期間の間に体力が落ちていたのかも知れません。

炊き出しは19時半くらいに終了し、簡単な全体ミーティングの後、残った大塚モスクさんのビリヤニを頂き帰路につきました。インディカ米を使ったチキンビリヤニの上に、手作りらしい人参のドレッシングがかかったサラダはとても美味しく、また大塚モスクさんの東日本の大震災の時の炊き出しの活動や、路上生活者の方々への寝場所の提供などの活動を知るところとなり、イスラームとは、ハラルフードとは何かを改めて調べるきっかけにもなりました。

最後に清野さんから、ベテランの人が少ないので是非一度限りでなく続けて参加して欲しいこと、いずれはリーダーの補助ができるようになっていって欲しいとお話がありました。一度炊き出しに参加すれば、水曜日に行っている夜廻りへの参加もできるようになるそうです。

今回、たくさんのホームレス状態の方々と触れ合う機会があり、中でも暖かい言葉をかけてくださった皆さんに感謝したいと思います。2回目の配食で、なかなか断られることの多かったクラッカーですが(水がないと食べづらいからかも)、「クラッカー、要りますか?」とちょっと自信なさげに差し出した私に「さっきお腹減って、クラッカーもう食べちゃったんだよ〜」と袋を差し出してくださる方がいたり、「帽子、似合う」とうっかりタメ口で話したところに「似合う?」と笑顔を返してくださったり、サポートしているようで、こちらがすっかり救われる場面も多くありました。

反面、多くの人に支援を行き届けさせるためにも、一人ひとりの方のニーズに細かく配慮できない、その時間的な猶予や様々なリソースがないことも痛感し、今後私自身が活動を続けていくにあたり、個人的な課題になっていくように感じました。

最後にボランティアとして受け入れてくださったT E N O H A S Iの皆様、本当にありがとうございました。「疲弊した」などと書きましたが、普通の体力があれば(私は自他ともに認める体力なし人間ですので…)初心者でも気軽に始められるボランティアですので、興味のある方は是非ご一緒しましょう!

かくいし

初心者の方向けボランティアの時にあると良いもの:

動きやすく汚れても大丈夫な服装、貴重品を身につけるための小さめのバッグ(特に女性の服にはポケットが少ないので)、飲み物、昼と夜で寒暖差があるので脱ぎ着しやすい羽織りものなど、普通の体力




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