還暦を過ぎて、炊き出しボランティア・デビューです。
聞き間違えは多いし、目はしょぼしょぼ、理解力も足腰も弱まる一方の身で、なんの取り柄もないオバサンは、皆さんの足手まといにならないか正直、少し不安でした。
でも、思い切って参加してみたら、やはり「案じるより生むが易い」ですね。新たなご縁や刺激をいただいて、身も心もリフレッシュしました。皆さん、ありがとうございます。
反面、初参加者向けのセミナーを受けながら、自分には社会の歪みを直視し、路上生活の方に寄り添い、行動し続ける覚悟などあるのだろうか――。ふと、そんなことも感じましたが、まあ、あまり気負わず自分のできる範囲で、ユルユル続けていけたらと思います。
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そもそも私が炊き出しボランティアに参加したいと思ったのは、飼っていた犬(♂)を通じて路上生活者の方たちと、わずかながら交流があったからです。
散歩の途中、尻尾フリフリ近づいていったのをきっかけに、彼は路上生活のオジサンたちに頭を撫でてもらったり、オヤツをもらうようになりました。ある人は缶を集めて得た収入の中から、彼のためにわざわざ犬用ジャーキーを購入してくれました。自分用に買ってきた食パンを半分にちぎって、分け前をくださる方もいました。
ところが墨田川テラスの整備や高速道路の脚柱工事が始まると、オジサンたちは追い立てられ、姿を見かけなくなってしまったのです。お礼を言えぬまま交流は途絶え、オジサンさんたちにいっぱい可愛がってもらった彼も昨年11月、旅立ちました。
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日中は春のような暖かい空気に包まれていましたが、日が落ちると次第に冷気が満ちてきました。東池袋中央公園で、いよいよ炊き出しのスタート。路上生活者の方々も三々五々、集まっていらっしゃいました。まず衣類の配布があり、続いて具だくさん汁かけご飯の配食です。オバサンは感謝の気持ちを込めて、勢いよくドンブリにご飯を盛っていました。
黙って作業を見守っていた先輩ボランティアが「これくらいが適量かな」と、ご飯少なめのドンブリを指さします。「なるべく野菜を採ってもらいたいでしょ」。そうでした! 汁のスペースを残しておかなくては(汗)。「牛丼じゃないからね」「お代わりもできるし」、すかさずオバサンにかけられた気配りの合の手、痛み入ります。
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交代して、路上生活者と同じメニューを若いボランティアの人たちと一緒にいただきました。まだ暖かい汁をすすると、薄味ゆえに野菜のうまみが口の中に広がります。彼女たちも今日が初参加とのこと。「思ったより若い人が多かった」という意見に加え、一人の女性の「一見しただけでは分からないですね。実家の父親も同じような恰好してますモン」という感想に、オバサンも大きく頷きました。これが新聞などでときどき目にする「見えにくい貧困」なんでしょうか。
見るからに路上生活をされていると分かる方もいらっしゃいますが、街ですれちがったら、まったく分からないような方も少なくありません。見た目で差別されることは減ったかもしれないけれど、路上生活の境遇は改善されない。この現実を改めて思い知った、炊き出しボランティア初体験でした。
とは言え、社会構造云々を声高に論じるつもりはなく、「細く長く楽しく」をモットーに参加したいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。(T・K)