※「年越しそばの柚子はこうして手に入りました」という前振り付きの炊き出しボランティア日記です。
柚子ゆずってくださ〜い!
確か2年前(2015年)の大晦日だったと思う。
最初の打ち合わせの中で、清野さんが「今夜のメニューは年越しそばなんだけど、薬味は何がいいかな。」と参加者に尋ねた。「ねぎ」「わかめ」「かまぼこ」…色々出て、誰かが「ゆず」と言った。調理作業中に、買い出しから戻った清野さんが「ゆず高かった〜」と、2個づめパックをいくつか示した。値段は忘れたが、いくら年末食材の高値のもとでも、高すぎ。
私は奥多摩山中の集落に住む。だいたい各家に柚子の木はある(我が家のはまだ小さくて実がならない)ので、つい「うちの近くに柚子の木たくさんあるんで、来年は(ゆずって)もらって来ましょう」なんて言ってしまったものだから…。
*
翌年の暮れ、大晦日直前になって、慌てて二軒隣のKさん宅に出かけた。山麓の我が家からはたくさんの実をつけた木が見下ろせる。「大晦日の”ホームレス”支援の炊き出しに使いたくて、柚子ゆずっていただけませんか?」と。「なに、綿貫さんそんなことまでやってんのかい? いい実はもう採ってあって、あとは鳥に食わせようと思って残してんだよ…」と、使い込まれた高枝切りハサミを持ち、一緒に柚子の木の下に。樹齢50年という。少しだけ若い私が、はしごで木の途中まで登り、良さそうな柚子を切った。
ご存知の方もおいででしょうが、柚子の木の棘はすごい。下手したら長靴を通して足にも穴が開くほど。体を支える手の置き場にも、背後の枝にも棘が。侮れない。すでに何度も霜が降りていたこともあり、皮がブヨブヨ状態の実がほとんどで、まだ固そうな実を10個ほどいただいて持ち帰り、炊き出し調理の場へ。
*
昨年暮れは、事前に伝えておこうと考えていたのに、年末の慌ただしさでKさん宅に伺えたのは、仕事休日の12月21日。「今年もお願いします。」と頼みこんだ。「なんだ、今年もだったの?ならもう少し早くに言って欲しかったな。冬至(22日)の前で、良いやつはみんなあげちゃったよ。残ってるかなぁ」と。この冬は特段に寒さが厳しく、12月中旬から氷点下5〜8度の朝が続いていたので、すでに何度も霜が降りている。いい実が残っているかは怪しく。それでも大小さまざま20個ほどゲットした。
やはり氷点下ギリギリまでになる自宅の玄関内に保存していたが、大晦日直前に確認したら、いくつかすでに皮が柔らかくなっていた。急遽、坂下の集落に降りHさんのところでも、いただいてきた。今回持参した柚の実15個ほどは、何度もチェックして選りすぐったもの。
薬味用の皮が剥がされた実は、いったんポリ袋に入れられ「生ゴミ」扱いにされた。そばで、茹で上がった蕎麦を水で締める作業をしながら、あれ〜もったいないと呟いていた。少したって袋を取りにこられ、果汁を絞って「なます」にかけるというお話。グットアイデア。配食前に味見したが、柚子のすっきりした酸味で美味しかった。
大晦日の配食メニューは、薬味たくさんトッピングの「年越し(月見)そば」と、アルファ米の炊き込みご飯の上に、この「なます」のせ。瞬く間に、おかわりを求める列ができていた。181人の方々に、「年越し」の香りとして喜んでいただけて何より。
自宅周辺には、持ち主が亡くなり、実がたわわに実りながら、放置された柚子の木もある。来年こそは、もっと計画的に柚子をゲットしておこう、と決意した次第。(綿貫公平)